秘密保持契約書(NDA)とは、取引先に対して秘密情報管理の方法や禁止事項を定めた契約書のことです。
秘密情報を勝手に利用したり、第三者に開示したりしないように契約書に定め、契約を締結します。
秘密保持契約書を締結する際には、内容の書き方や締結のタイミングに気を付ける必要があります。
秘密保持契約書や締結の注意点について、以下で具体的にみていきましょう。
この記事でわかること
- 秘密保持契約書が必要な理由
- 秘密保持契約書を締結する場面
- 秘密保持契約書の書き方やひな形
- 契約締結時のチェックポイント6つ
- 秘密保持契約書締結のタイミング
秘密保持契約書は秘密情報管理の方法や禁止する事項を定めた契約書
秘密保持契約書は、秘密情報管理の方法や禁止する事項を定めた契約書です。
英語では「Non-Disclosure Agreement」で、頭文字からNDAともよばれます。
秘密保持契約書の必要性や種類、締結の場面やタイミングを、以下で具体的に確認していきましょう。
秘密保持契約書は情報を勝手に利用されないために必要
秘密保持契約書は秘密情報を取引先に開示するとき、情報を勝手に利用されないために必要です。
契約をせずに秘密情報を開示すると、悪用されたり不当な情報流出をされたりと、巨額の損失に繋がる可能性があります。
情報を開示した側は情報を広めずに優位性を保ちたいと思っていても、開示される側は情報を最大限に活用したいと思うのが一般的であり、これらを調整するために必要です。
秘密保持契約書を交わすことで情報の用途を限定し、第三者に情報を開示させるのを防ぎます。
他にも、何が秘密情報なのかお互いに認識するためにも秘密保持契約書は必要です。
秘密保持契約書の種類は「双務契約」と「片務契約」の2種類
秘密保持契約書の種類は、「双務契約」と「片務契約」の2種類です。
「双務契約」はお互いに情報を開示し、双方に秘密保持の義務が発生します。
「片務契約」はどちらか片方が情報を開示し、情報を開示された側のみに秘密保持の義務があります。
お互いに秘密情報を開示する場合は、「双務契約」で双方に義務が発生するように契約するのが望ましいです。
秘密保持契約書を締結する場面
秘密保持契約を締結する場面は、以下のような場面です。
- 業務提携の際に自社の事業内容を開示するとき
- 共同研究の際に自社の技術や情報を共有するとき
- 従業員を雇用するとき
- 従業員が退職するとき
- 従業員が新しいプロジェクトに参加するとき
締結する場面ごとに、契約書の内容を変える必要があります。
従業員を雇用する際は創出した情報の報告や帰属を定めた項目、退職する際は企業の不利益となる就業行為を禁じる項目などを契約書に記載します。
締結のタイミングは秘密情報を共有する前が最適
秘密保持契約締結のタイミングは、秘密情報を共有する前が最適になります。
その理由は、情報共有後では契約締結前に共有した情報は、秘密情報として扱われない場合があるためです。
情報共有後に締結する場合、想定外の情報利用をされてしまう可能性があるため、契約締結前に開示した情報も秘密情報に含まれるように記載するとリスクが軽減されます。
他にも情報開示後に取引が破談になる可能性があるため、基本的には秘密情報を共有する前に契約を締結するのが望ましいのです。
個人情報保護法と秘密保持契約の関係
個人情報保護法は、個人情報を事業で利用している個人情報取扱事業者に対して、個人情報を安全かつ適切に管理監督するように定めた法律です。
個人情報取扱事業者は、秘密情報に個人情報が含まれていたら、秘密保持契約を締結した方が良いとされています。
秘密保持契約を締結せずに個人情報を開示してしまうと、情報を管理監督できなくなるからです。
情報開示先が情報を適切に管理するように、前もって秘密保持契約で情報の取扱い方法を定めなければなりません。
特にプライバシーマーク(Pマーク)を取得している企業は、入社時に全従業員に個人情報に関する秘密保持契約を誓約させる必要があります。
プライバシーマークを取得した企業は、自社が管理する個人情報を従業員に指導・監督しなければならないため、義務を怠ると取り消しや改善要請を受ける可能性があります。
締結せずに秘密情報を共有した際に起こりうる問題
締結せずに秘密情報を共有した場合、以下のような問題が起こる可能性があります。
- 特許申請が通らない
- 不正競争がおこる
以下で、具体的にみていきましょう。
特許申請が通らない可能性がある
秘密保持契約を締結しないと、特許申請が通らない可能性があります。
特許法第29条から、「公然に知られた発明」である場合、特許を受けられません。
秘密保持契約を締結していない人に秘密情報が知られていると、「公然に知られた発明」として認識されて特許申請が通らなくなる可能性があります。
不正競争がおこる可能性がある
秘密保持契約を締結しないと、不正競争がおこる可能性があります。
取引先の情報漏洩によって、他の会社が似たような製品やサービスを作成したとします。
不正競争防止法の「営業秘密」であれば、損害賠償請求や差し止め請求ができますが、秘密情報でないと請求できません。
「営業秘密」の証拠として、秘密保持契約を交わしていなければ、証明が難しいのです。
秘密保持契約書の書き方やひな形を紹介
秘密保持契約書の書き方やひな形は、経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」に記載してあります。
その中から状況別の秘密保持契約書の書き方を、要点を絞ってご紹介します。
具体的なひな形を確認したい人は、こちらのサンプルをご確認ください。
p.183 (参考資料2)各種契約書等の参考例 第3 秘密保持誓約書の例
サンプルそのままでは条項が足りない可能性があるため、取引に応じた契約書になるように、内容をしっかりと確認して作成する必要があります。
状況別の書き方の要点を、以下でみていきましょう。
従業員の入社時
従業員が秘密情報へのアクセス権限を持った時、秘密保持契約書を作成します。
その理由は、従業員からの情報漏洩が多いためです。
罰則規定を定め、一定期間企業の不利益になる競合行為を禁ずる旨を規定、などが可能となります。
主な条項は、以下の通りです。
- 在職時の秘密保持
- 退職後の秘密保持
- 損害賠償
- 第三者の秘密情報
- 第三者に対する守秘義務等の遵守
- 創出等した情報の報告及び帰属
「第三者の秘密情報」や「第三者に対する守秘義務等の遵守」では、他社から転職してきた人が持っている秘密情報を無意識に侵害しないように内容を定めます。
「創出等した情報の報告及び帰属」はプロジェクトごとに取り決めがある場合、秘密契約書の条項として必要ありません。
従業員のプロジェクト参加時
従業員が新たにプロジェクトに参加する際、秘密情報にアクセスするのであれば、秘密保持契約書の作成が必要になります。
主な条項は、以下の通りです。
- 秘密保持の誓約
- プロジェクト終了時の秘密保持等
- 第三者に対する守秘義務の遵守
- 情報の帰属
「秘密保持の誓約」の対象となる情報は、「プロジェクト進行中や終了時に情報の範囲や内容を特定することが望ましい」と記載があります。
従業員の退職時
従業員が退職する際、退職後に秘密情報を公開しない期間を定められます。
主な条項は、以下の通りです。
- 秘密情報の確認
- 退職後の秘密情報の制約
- 秘密情報の帰属
- 契約の期間、終了
- 競業避止義務
「競業避止義務」は、企業の不利益となる就業行為を禁じる項目になります。
職種によっては一定期間の間、同じ職種で競合他社で働かないように定めます。
従事していた業務に関する職務を受注したり、請け負ったりする行動も制限可能です。
他社による工場見学時
他社による工場見学時には、秘密情報をみられる可能性が高いです。
そのため、工場見学前に契約を交わす必要があります。
主な条項は、以下の通りです。
- 秘密保持の制約
- 承諾を得ない使用の禁止
- 従業員に対する開示
- 損害賠償
「秘密情報の誓約」の項目に記載する秘密情報の範囲ですが、「一切の情報」という記載の仕方の他、具体的に別紙で内容をリスト化する方法があります。
業務提携や業務委託の事前検討・交渉段階
業務提携や業務委託の事前検討や交渉の段階でも、秘密情報を共有しなければならない場合は契約を締結します。
契約をせず秘密情報を開示してしまうと、取引開始前でも情報漏洩の可能性があります。
主な条項は、以下の通りです。
- 秘密情報
- 秘密情報の取扱い
- 返還義務等
- 損害賠償等
- 有効期限
- 協議事項
- 管轄
「秘密情報」の項目で、秘密情報の範囲として業務提携や業務委託の検討自体を含められます。
その場合、有効期間は他の秘密情報と比較して短く、6か月から2年程度に設定するのが一般的と記載があります。
他に口頭で秘密情報を開示した場合などに備え、「情報開示後に書面を交付することで秘密情報とみなされる」といった内容も追加可能です。
締結の流れは3ステップ
秘密保持契約締結の流れは、3ステップで完了します。
- 原案の作成を行う
- 内容をお互いに確認する
- 署名、記名、押印をする
以下で、具体的な内容をみていきましょう。
1.秘密保持契約書の原案の作成を行う
契約を締結するどちらかの企業が、秘密保持契約書の原案の作成を行います。
秘密保持契約書には秘密範囲や用途を記載するため、秘密情報を開示する側が作成した方が合理的です。
秘密保持契約書は、基本契約書の内容に含める場合と別に契約書を用意する場合があります。
秘密情報の内容が単純な場合は基本契約書に含め、記載事項が多く複雑な場合は別に契約書を作成します。
秘密保持契約の内容によって異なるため、原案作成前に確認が必要です。
2.秘密保持契約書原案の記述内容をお互いに確認する
秘密保持契約書原案の記述内容を、お互いに確認します。
記述内容は記述した側にメリットがあるように作成されるため、記述していない側の企業は特に気を付けて内容を確認する必要があります。
自社に不利益な条項が無いかをよく確認し、懸念事項がある場合には弁護士にリスクを確認しましょう。
記述内容を確認したうえでお互いに合意が取れない場合、修正をして意見のすり合わせをする必要があります。
3.合意した秘密保持契約書に署名、記名、押印をする
合意した秘密保持契約書に、署名、記名、押印を行います。
秘密保持契約書は締結する会社分作成し、それぞれ一部ずつ保管するのが一般的です。
印鑑証明書のある実印で押印した方が良いのですが、認印でも法的効力はあります。
締結時のチェックポイントは6つ
締結時のチェックポイントは、6つあります。
- 秘密情報の範囲の確認
- 情報受領者の義務の確認
- 義務違反時の効果の確認
- 複製の可否の確認
- 契約期間と契約後の規定の確認
- 秘密情報の返還、廃棄の対応を確認
以下で、具体的な内容をみていきましょう。
秘密情報の範囲が明確かを確認する
情報漏洩されて困る秘密情報の範囲が明確になっているかを確認します。
秘密情報の範囲に入れ忘れた場合、その情報は秘密情報として取り扱われません。
そのため、相手に情報漏洩されても契約違反を指摘できなくなります。
情報を開示する側は、開示する情報を原則として秘密情報にするのが望ましいのです。
秘密情報を一部に限定する場合は、慎重に検討する必要があります。
他にも、秘密情報が書かれている書類には「秘密」と明記するなど、契約書以外でも秘密情報がわかりやすいように工夫しましょう。
秘密情報にならない情報として、以下の2つがあります。
- 既に世に知られている情報
- 開示を受ける前に保有している情報
秘密情報を受け取る相手の義務が明確か確認する
秘密情報を受け取る相手の義務が明確か、確認をします。
具体的な義務は、以下のようなものです。
- 第3者に漏洩しないこと
- 目的以外に使用しないこと
- 漏洩した場合はすぐに報告すること
- 適切に管理すること
- 不正アクセスや持ち出しを防止する対策をすること
「目的以外に使用しないこと」を義務とする場合は、「目的」を具体的に定める必要があります。
他にも、「適切に管理すること」や「不正アクセスや持ち出しを防止する対策をすること」の場合、管理する方法や防止対策について具体的に定めましょう。
義務違反された場合に効果があるか確認する
情報を受け取った側に義務違反をされた場合に、効果があるかについて確認しましょう。
義務違反に対して効果が無ければ、契約書を交わしていても情報開示側が不利です。
情報開示側と情報を受け取る側が対等となるように、契約書の内容を確認する必要があります。
秘密保持契約違反で損害をおった場合、損害賠償を請求できますが、文言を追加して損害賠償を請求できる範囲や金額を定めるのも可能です。
他にも不正競争防止法上の「営業秘密」であれば差し止め請求ができますが、「営業秘密」に該当しなくても差し止めできるように記載できます。
義務違反があった場合に、違反した側に効果があるように内容を定めましょう。
秘密情報の複製ができるかどうか確認する
秘密情報の複製ができるかについて確認します。
秘密情報の複製が制限されていなければ、情報が複製される可能性があります。
複製された情報を漏洩されたり、勝手に利用されたりすると、秘密情報と同様に大きな損害に繋がるかもしれません。
特に機密性の高い情報を開示する場合には、注意が必要です。
秘密保持契約書には、「原則複製を禁止、必要に応じて例外を認める」といった記載の仕方もできます。
「必要に応じて」という制限で、複製の必要性を情報開示側が判断するため、情報を勝手に利用されないために有効です。
複製を許可する場合、取引の必要な範囲に限定する必要があります。
そして使用目的や、複製物の原本と同様にしっかり管理するよう管理の仕方も定めなければなりません。
契約期間の指定と契約後の規定は適切か確認する
秘密保持契約書の契約期間の指定と契約後の規定が、適切かについて確認します。
秘密情報の契約期間は、指定が必要です。
秘密情報の契約期間を延ばしたい場合には、「自動更新」を文言に追加できます。
契約後も公にしてはならない情報が秘密情報に含まれている場合、公開されないように明記します。
契約期間終了後も一定期間効果が継続するように規定すべき条項は、損害賠償や差止め請求、紛争解決などです。
秘密情報の返還や廃棄の対応を定めているか確認する
秘密情報の返還や廃棄の対応を定めているか、確認します。
相手が情報をもったままでは、情報の漏洩や不正利用の可能性が残るため、必要がなくなったら回収するのが望ましいです。
秘密情報を相手方が持っていてリスクがあれば、契約終了後でなくても情報開示した側が求めた際に返還や廃棄を請求できる旨を規定しておく必要があります。
情報を開示する側は受領側に、破棄証明書や返還証明書の発行の義務を課すのも可能です。
証明書発行の義務を課すことにより、情報受領側に返還や廃棄の対応が重要と示せます。
メールやメールの添付資料などで情報を開示した場合は返還が不可能のため、規定する必要がありません。
収入印紙は基本的には不要
収入印紙は、基本的には貼り付ける必要はありません。
秘密保持契約書は、印紙税法が定める課税文書の対象ではないためです。
もしも取引基本契約書の一部に秘密保持契約条項が含まれている際は、他の契約内容が併記されていると内容によっては課税文書の対象になります。
契約内容によって課税文書の対象になるかが決まるため、課税対象となる文書の範囲を国税庁のホームページで確認しましょう。
課税文書の対象になり収入印紙が必要な場合も、電子契約であれば収入印紙は不要です。
電子契約で手間を省き、素早く締結できる
秘密保持契約は電子契約で手間を省き、素早く締結できます。
郵送や署名捺印後の返送の手間が省け、インターネットやメールを使用して素早く契約締結ができます。
契約締結に最適なタイミングが秘密情報開示前のため、早さが重要です。
さらに、内容の修正が楽、閲覧や管理がしやすいといったメリットがあります。
修正後の印刷や郵送が不要となり、権限があれば複数人での閲覧や管理が可能となります。
秘密保持契約書(NDA)は慎重に締結しなければならない
秘密保持契約書(NDA)は、慎重に締結しなければなりません。
その理由は、秘密保持契約書の内容によっては効果的に秘密情報を守れず、自社への大きな損害に繋がる可能性があるためです。
秘密保持契約書を締結する場面は秘密情報を取引先に対して開示するときですが、内容や取引先の義務などが曖昧では、十分な効果が得られません。
そのため、秘密保持契約書の内容は取引先や取引の内容にあわせて作成し、慎重な締結を心がけましょう。